後継者の第二創業は「個人事業か会社か」どっちがいいの?

目次
【個人事業と会社設立どっちがいいの?】
ポイント①-社会的信用
会社は、個人事業主と比べて社会的信用度が高いといわれています。その理由として、会社法で会社の責任が求められており、商業登記によって会社の実態が証明されているからです。たとえば、新しく取引を始める会社があったとして、仕事を依頼したけど期日までに納品されないとか、貸したお金が返ってこないなどということでは困りますよね。きちんと業務管理された、信用できる会社と取引したいと思うのが一般的です。
ちなみに、銀行から融資を受けるときも、会社のほうが借入れしやすいということがあります。取引先からも信用があれば、継続的に取引してもらいやすく、経営の安定につながります。
ポイント②―税金
個人事業主か会社か選択するときのポイントとなるのが、税金の違いです。経営者としては、なるべく節税をして、事業のために使えるお金を増やしたいところです。
事業で得た利益に対して、個人事業主は所得税、会社は法人税の負担が必要になります。所得税は、利益が多くなればなるほど税率が高くなる超過累進税で、住民税と併せると最高55%になります。法人税は定率のため、どんなに利益が出ても最高30%です。節税の観点からは、利益が一定の額を超えると会社のほうが有利となります。
また、経費の認められる範囲にも違いがあります。個人事業主の場合は、収入から経費を除いたものが所得となりますが、個人のお金と事業のお金の区別がつきにくいため、必要経費と認められない場合があります。会社の場合は、必要経費に加えて、役員報酬なども経費として認められています。
起業してすぐは個人事業主で、所得が高くなってきたら法人化する会社も多くあります。一般的には、所得金額1000万円を超えると法人化をする目安とされています。その際、個人から会社へ資産を引き継ぎたい場合には、税金がかかることに注意が必要です。
ポイント③―借入・未払金への責任
事業用の借入や未払金は、借主が個人か会社か、また会社の種類により返済する範囲が異なります。この範囲のことを有限責任または無限責任といいます。
有限責任とは、借りたお金の債権者に対して、出資額を上限に支払の責任を持つことです。会社が倒産したときや、会社に負債が発生したときであっても、出資額以上の負債を負う必要はありません。ただし実務上は、有限責任であっても、借入金額によっては保証協会の保証に関係なく、個人財産の担保の提供を求められることがあります。
無限責任とは、債権者に対して個人資産も含めて支払の責任を負うことをいいます。会社が負債を抱えてしまったときは、私財を投げ打ってでも返済する必要に迫られます。個人事業主は無限責任です。
以上、事業を行う形態をどうするのか、選択するときの3つのポイントをあげてみました。ほかにも個人事業主と会社での違いは様々なものがありますので、下図を参考にしてください。
〈個人事業と会社の違い〉 | ||
個人事業 | 会社 | |
設立手続き | 税務署へ開業届を 出すのみ |
登記をする。 |
設立費用※ | なし | 株式会社 約25万円 合同会社 約6万円 |
事業の追加変更 | 自由 | 定款の変更、登記が必要 |
廃業したいとき | いつでもOK 廃業届を出すのみ |
清算手続きなど、 多くの手続きが必要 |
社長にもしもの時 | 廃業 | 継続可能 |
税金の負担 | 所得税 | 法人税 |
節税 | 余地が少ない | 範囲が広い |
会計事務 | 簡単 | 複雑 |
責任の範囲 | 無限責任 | 有限責任 |
※電子定款のとき |
【個人事業のメリット・デメリット】
個人事業のメリットは、税務署に開業届を出すだけでとても簡単です。設立費用もかかりません。税金は、個人の所得に対し所得税がかかりますが、所得が高くない場合は、個人事業のほうが、会社に比べて税額を抑えられます。また、赤字の時でも支払う法人住民税や社会保険料を支払う必要もありません。そして、個人事業主は定年がないので生涯現役でいられ、他人の指示を受けず、自分の責任と判断で動けるうえに、利益は自分のものです。つまり、すべて自分次第ということになります。
個人事業のデメリットは、個人は人間ですから必ず寿命があり、事業主の死亡により事業は終了します。例えば、亡くなった事業主の長男が事業を引き継ぐ場合でも、税務上、親の廃業届と長男の事業開始届が必要になります。また、個人資産・事業用資産を問わず、亡くなった親の財産は相続人である親族が引き継ぎますので、財産分割により事業用財産を手放すことになれば、事業の継続ができなくなってしまいます。
〈個人事業のメリット・デメリット〉 | |
メリット | デメリット |
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【会社のメリット・デメリット】
設立できる会社の種類は、株式会社・合同会社・合資会社・合名会社の4つです。このうち合資会社と合名会社は、無限責任を負うことや知名度の低さなどから、現在ではほとんど設立されていません。株式会社か合同会社のどちらかを選択することが多いことから、この2種類について解説します。
株式会社のメリット・デメリット
株式会社は、出資をする人と経営をする人が区別された制度です。出資割合に応じて、出資者には会社の経営方針についての様々な権利が与えられています。また、信用度が高いため、資金の調達や人材の募集がしやすいという特徴があります。株式会社でないと取引しないという会社もあるようです。登記や社会保険、会計処理などの手続きが必要で、組織としての適性な業務管理が厳しく求められます。
メリット | デメリット |
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株式会社はこんな場合に向いている
- 事業拡大をしていきたい
- 株式会社で許認可が必要
- 株式上場を考えている
- 「代表取締役」の肩書が欲しい
- 法人相手のビジネスを拡げていきたい
合同会社のメリット・デメリット
合同会社はスモールビジネスに向いています。近年では副業を認める会社も増え、手続きが簡単で設立費用が安いので、合同会社の設立件数は増加傾向にあります。小規模な資金や事業でも、法人として受けられるメリットは株式会社とほぼ同じです。さらに、法的な義務や規制も少ないため会社経営の自由度が高く、煩雑な手続きも必要ありません。有名企業では、例えばアップルやアマゾンの日本支社も合同会社です。
合同会社のデメリットとして、知名度が低いので社会的信用度は株式会社よりも低いのが現状です。銀行などからお金を借りたいときや人材を募集したいとき、思うようにいかないことがあります。また、出資者と経営者が同一人物なので、出資者同士の対立で意思決定・事業運営が困難になる可能性があります。
メリット | デメリット |
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合同会社はこんな場合に向いている
- ひとりで事業を行う場合
- とにかく最初の設立コストを抑えたい場合
- 副業として会社をつくりたい場合
- 節税対策で会社を作りたい場合
【まとめ】
後継者が第二創業するときに、個人のままか、会社設立か検討することがあります。それぞれの形態にメリット・デメリットの両方があります。事業内容や規模、将来の事業拡大の計画などを考慮し、どの形態を選択するかによって、設立後の経営状況にも影響を与えます。会社設立の手続きや資金調達をご検討中の方は、税理士などの専門家にご相談ください。